36. モーラー奏法の注意点

デイヴ・ウェックルが、彼自身の新教則ビデオや各地で行なっているドラムクリニック等でモーラー奏法(モーラーシステム、モーラーテクニック)の優位性を力説している影響もあり、日本のドラマー達やドラム教育機関など、いたる所でモーラー奏法が研究され始めているようです。いわばようやくモーラー奏法の「練習スタート地点に辿りついた」と言っても良いでしょう。長年にわたり海外のドラム奏法普及に努めてきたK’s MUSICとしても大変喜ばしい出来事です。

そこで今回は、これからモーラー奏法を勉強していこうと考えている皆さんに、いくつか注意点を提示しておきたいと思います。

1. モーラー奏法による音色変化

まず一つめは「音」についてです。モーラー奏法においては、前後左右・上下に動かしながら流動的にストロークを行なうため、必然的にドラムヘッドに当たるスティックの角度と打点が1打ごとに変化しています。この効果を積極的に利用することで、音色音量ともに抑揚感ある演奏表現が可能となるのです。

つまりスピードやパワーばかりに目を奪われがちなモーラー奏法ですが、「遠近感のある音楽表現効果を含んだ上での奏法」という事を認識して下さい。ダイナミクスのついた音、抑揚のついた音楽表現がいらなければ、モーラー奏法を使う必要はありません。

2. モーラー奏法をドラムセットで応用するには

二つめはセット応用についてです。サンフォード・モーラー氏が、このモーラー奏法を確立させた1920年代頃、彼自身の置かれていた音楽的な環境には、現在あるポピュラーミュージックのようなスタイルは当然無く、軍隊のマーチングやオールドスタイルのジャズが中心となっていました。

したがって使用されていたドラムセットも、そのプレイスタイルも現在のものとは大きく異なり、スネアドラムを中心とした演奏形態(ドラミング)をとっていたのです。当時の音楽的な背景から考えれば、彼にとって必然的に生まれたスネアドラムのための奏法であったと言っても良いでしょう。

しかし、これからモーラー奏法を勉強していこうと考えている皆さんは、はたしてスネアドラムでのプレイスタイルが中心となっている音楽だけを聴き、同じように演奏することを目標(目的)としているのでしょうか?ほとんどの方が、そうではないとお答えになると思います。

現存するモーラー奏法関連の資料では、『モーラーブック』をはじめ、ジム・チェイピンやデイヴ・ウェックルの教則ビデオ、そして最近では米国モダンドラマー誌に掲載されたモーラー奏法の特集記事など、そのどれもが「スネアドラム上の解説」にとどまっており、残念ながらタムやシンバルなど複数の楽器間の移動が伴った「現代的なドラミングフレーズ」については、ほとんど触れられていません。

スネアドラムプレイが中心になっている「オールドスタイルのジャズドラム」を志している方は、そのまま流用できますが、複数の楽器を様々な形で使う「現代的ドラミング」を志している方は、始めから応用モーラー奏法をドラムセット上で使えるようにしておくことをお勧めします。

NEXT応用モーラー奏法とはなにか?