36. モーラー奏法の注意点

2004/03/26『緊急報告』を追加

 デイヴ・ウェックルが、彼自身の新教則ビデオや各地で行なっているドラムクリニック等でモーラー奏法(モーラーシステム、モーラーテクニック)の優位性を力説している影響もあり、日本のドラマー達やドラム教育機関など、いたる所でモーラー奏法が研究され始めているようです。いわばようやくモーラー奏法の「練習スタート地点に辿りついた」と言っても良いでしょう。長年にわたり海外のドラム奏法普及に努めてきたK's MUSICとしても大変喜ばしい出来事です。

 そこで今回は、これからモーラー奏法を勉強していこうと考えている皆さんに、いくつか注意点を提示しておきたいと思います。

1.モーラー奏法による音色変化

 まず一つめは「音」についてです。モーラー奏法においては、前後左右・上下に動かしながら流動的にストロークを行なうため、必然的にドラムヘッドに当たるスティックの角度と打点が1打ごとに変化しています。この効果を積極的に利用することで、音色音量ともに抑揚感ある演奏表現が可能となるのです。

 つまりスピードやパワーばかりに目を奪われがちなモーラー奏法ですが、「遠近感のある音楽表現効果を含んだ上での奏法」という事を認識して下さい。ダイナミクスのついた音、抑揚のついた音楽表現がいらなければ、モーラー奏法を使う必要はありません。

2.モーラー奏法をドラムセットで応用するには

 二つめはセット応用についてです。サンフォード・モーラー氏が、このモーラー奏法を確立させた1920年代頃、彼自身の置かれていた音楽的な環境には、現在あるポピュラーミュージックのようなスタイルは当然無く、軍隊のマーチングやオールドスタイルのジャズが中心となっていました。

 したがって使用されていたドラムセットも、そのプレイスタイルも現在のものとは大きく異なり、スネアドラムを中心とした演奏形態(ドラミング)をとっていたのです。当時の音楽的な背景から考えれば、彼にとって必然的に生まれたスネアドラムのための奏法であったと言っても良いでしょう。

 しかし、これからモーラー奏法を勉強していこうと考えている皆さんは、はたしてスネアドラムでのプレイスタイルが中心となっている音楽だけを聴き、同じように演奏することを目標(目的)としているのでしょうか?ほとんどの方が、そうではないとお答えになると思います。

 現存するモーラー奏法関連の資料では、『モーラーブック』をはじめ、ジム・チェイピンやデイヴ・ウェックルの教則ビデオ、そして最近では米国モダンドラマー誌に掲載されたモーラー奏法の特集記事など、そのどれもが「スネアドラム上の解説」にとどまっており、残念ながらタムやシンバルなど複数の楽器間の移動が伴った「現代的なドラミングフレーズ」については、ほとんど触れられていません。

 スネアドラムプレイが中心になっている「オールドスタイルのジャズドラム」を志している方は、そのまま流用できますが、複数の楽器を様々な形で使う「現代的ドラミング」を志している方は、始めから応用モーラー奏法をドラムセット上で使えるようにしておくことをお勧めします。

3.応用モーラー奏法とは何か

 バディ・リッチ,ヴィニー・カリウタ,スティーヴ・スミス,デニス・チェンバース,ニール・パート,デイヴ・ウェックル等々、海外の超一流ドラマー達は演奏時のほとんどをモーラー奏法でこなしています。しかし現在入手可能な文献からは、その「事実」を理解し「説明」することは不可能でしょう。

 おそらく、それぞれのドラマー達が「全く別の奏法」で演奏をしているようにしか見ることができず、むしろモーラー奏法よりも今までの日本的奏法と近いものに見えてしまうという方も多いのではないでしょうか?

 つまり、応用モーラー奏法とは、日本的奏法のようなスティックラインや腕のモーションを見た目で捉えたものではなく、「物理的原理を最優先して行なっている奏法」と言えます。

4.日本的奏法とモーラー奏法の共存

 最後に、従来の日本的奏法で長年練習してきた人達へのアドバイスです。

 「モーラー奏法」と、国内で独自の発展を遂げてしまった「日本的奏法」では、その物理的原理があまりにかけ離れすぎています。つまり、日本的奏法とモーラー奏法の共存は物理的に不可能なのです。

 したがって日本的奏法にモーラー奏法を取り入れようとする練習は、従来のような「勘違い奏法」をまた生み出すだけで、時間とお金が無駄に費やされてしまう結果になります。

 現に「モーラー奏法は音がまとまらない」「身体に負担がかかる」「腕をひねる動きが老体にはきつい」という“苦情”も耳にしています。これはモーラー奏法と、原理の全く違う日本的奏法を混在させようとした当然の結果でしょう。

 真剣にモーラー奏法を習得したいと考えているのならば、奏法改革を成し遂げたデイヴ・ウェックルでさえそうであったように「スティックの持ち方」から再度やり直すこ とをお勧めします。

 従来の奏法では成し得なかったプレイを「容易」にし、テクニックにとらわれずに「音楽をより感じる」ことを可能にするモーラー奏法の恩恵を授かるには、今までの理想と価値観を全て捨て去る勇気が必要です。

モーラー奏法の進化



↓2004/03/26追加↓
2004年2月緊急報告!!
◆勘違いな“日本式モーラー奏法”に要注意◆

 残念なことに、危惧は現実となってしまいました。2年前(2002年5月)に、このページで指摘していた通り、物理的な原理を無視して、表面的な動きだけを安易に真似した勘違いな“日本式モーラー奏法”が、国内のあちこちで生み出されてしまっていたのです。

 最近(※)K's MUSICに入校された生徒さんからだけでも、すでに3例の報告(下記参照)を受けています。

(※2004年2月時点)

 今後も“新種”の報告があり次第、ここに追加していきますが、これらの勘違いな“日本式モーラー奏法”では、モーラー奏法本来の効果(高速フレーズ内の音色変化やアクセントプレイが容易になり、より音楽的な演奏が実現等々)が実感できないばかりか、かえってスピードやパワーが落ちて下手になったり、最悪の場合は身体に故障を招く原因にもなりかねません。どうぞ、ご注意下さい。


■ケース1:腕を開いているだけで、上腕骨・しゃっ骨・とう骨の回転が見られない“日本式モーラー奏法”
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 しゃっ骨の回転運動がないため、4分音符しか叩けなくなってしまう例。ポンタさんの「8の字スティックワーク」を誤解してしまうと、こうなるので要注意!! ポンタさんの奏法は、そんなに甘いものではありません!


■ケース2:フレンチグリップから、いきなりジャーマングリップでヒットしている“日本式モーラー奏法”
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 しゃっ骨を軸として前腕部が回転していないため、スピードばかりかパワーまでダウンしてしまう本末転倒な例。デイヴ・ウェックルの教則ビデオを誤解して練習すると、こうなるので要注意!!


■ケース3:手首→ヒジ→肩関節という順番で身体動作を行なう“日本式モーラー奏法”
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 ダンス要素の強いコースタイルのモーラー奏法を、そのまま安直にドラミングに応用しようとした例。手首をひねった際に、相当な負担がかかってしまうので要注意!!


 ここに掲載しているのは、当スクールに入校された生徒さんから報告されたものだけです。実際にはもっと沢山の日本式モーラーが生み出されてしまっている危険性がありますので、くれぐれもご注意下さい!

※“日本式モーラー奏法”に関しては、新規生徒さんから“新種”の報告があり次第、ここに追加していきます。

(2002年5月)