多くのドラマーが一番、分析、研究しているのがグリップと言ってもいいほど、教則本や教則ビデオ、セミナー記事等で必ず触れられる項目となっています。前回までのショルダームーヴ奏法やボディショット等の胴体奏法よりも、グリップについて分析、研究している人の方が多いのではないでしょうか? そこで、今回は海外の超一流ドラマー達が共通して行う「フリーグリップシステム」について解説していきたいと思います。 この、フリーグリップシステムのキーワードは、手指にかかる「慣性力」です!!
グリップのセミナー記事でもよく言われる「支点」という考え方がありますが、実際のところはどうなっているのでしょうか? まずは日本的グリップとフリーグリップシステムの支点・力点・作用点を比較してみましょう。
「ホントかよ!?」と思ってしまった人も多いかもしれませんが、皆さんもすでに海外の超一流ドラマーのビデオ等で、目にしてるはずですよ!! それでは、実際に日本的グリップとフリーグリップのストロークを、次の動画でご覧下さい。特に注目して頂きたいのが、親指と人指し指(もしくは中指)の使い方の違いです。
いかがですか? 日本的グリップでは親指と人指し指を固定して、中指・薬指・小指で握りこむ動きが目立ちますが、フリーグリップシステムは支点となるはずの親指と人指し指自体も動いていますよね。ということは、親指と人指し指は支点ではないということになります。(この動きを、手首のスナップと勘違いしてしまっているセミナー記事や教則本をよく見かけます。また「小指でスティックを巻き込む」というようなグリップとも、フリーグリップは全く別物です。勘違いなさらずに読み進めて下さいね!)
え!?と思われた方も多いのではないでしょうか? しかしこれは紛れもない事実なのです。
どうしてこのような勘違いした日本のグリップが生まれてしまったのでしょうか? ではここで質問ですが、みなさんがビデオ等でグリップを確認する時、「どの瞬間で判断」していますか? 「打面をヒットした瞬間」は見えにくいせいか(1コマが1/30秒のビデオ等では映像がブレてしまい、確認は不可能です)「振り上げた瞬間」や「スティックがリバウンドし終わった瞬間」を静止画にして、グリップを判断する人がほとんどではないですか? 事実、セミナーや教則本等でも、この瞬間の見え方にもとづいて「誰それ風グリップ」というふうに解説されているのを、本当によく見かけます。 「実はここに大きな落とし穴があるのです」 振り上げた瞬間やリバウンドし終わった瞬間のグリップで判断してしまうのは、そもそも「ワンモーションの中でグリップの形が変化しない」という思い込みがあるからではないでしょうか? (ここで言う「グリップの変化」とは「叩く瞬間に握る」というような日本的奏法とは全く異なります)
ここで、この動画をご覧下さい
動画のように、完全脱力して腕を上下させると、腕を振り上げた時と振り下ろした時で、自然に手の形が変化します。(肘の屈伸を使ったり、自分で手首を動かしてしまうと、動画のようにはならないので、要注意!)これにスティックを添えると、最初の動画の後半部のような動きになるわけです。 海外の超一流ドラマー達のグリップは、このように振り上げた時と振り下ろした時で変化する「フリーグリップシステム」が基本になっています。 いくら静止画にしてグリップを確認しても、動きの中でグリップが変化するという発想がないかぎり、超一流ドラマー達のグリップ原理は見えてこないのです。 実は彼らのグリップには、定まった支点箇所は一切ありません。なぜなら、明確な支点箇所を作ることはリバウンドの力を自身の指の力で妨げるばかりか、慣性力学の法則にも反するために、必ず力む結果となるからです。 ヒットの際にスティックと手にかかる慣性モーメントを最大限利用するためには、ワンモーションの中でも(一打単位でさえ!)手の形は必ず変化する必要があるのです。 物の道理として、支点を作ってある場所(打面)に力を加えると、その「反作用」で、支点にも「同じ力」が必ずはね返ってきます。ですから機械工学などでは支点箇所を増やして構造を複雑にしてまで「反作用によって起こる反発力を分散させる技術」が常識として使われています。 高速でピストンが上下動する自動車等のエンジンでは、エンジン内部の支点個所が少なくなってしまうとパワーが上がりません。F1に代表されるスピードを競うレーシングカーでは、エンジンもサスペンションも支点個所を増やして慣性の影響を受けなくさせる技術が当然として使われています。 しかし、パワーショベルのような支点個所が少ない機械は、ゆっくりと大きな力は出せても、素早く動かす事は絶対に不可能です。 超一流ドラマー達は、スティックを振り上げた時と振り下ろした時で「支点箇所がそれぞれ異なり、持ち方(グリップ)まで変化」しています。つまり「その時々の振り幅やスピード」によって起こる慣性力だけに任せた支点移動を常に繰り返してスティッキングを行なっているわけです。(彼らがもし、明確な支点個所を設けてしまったら、実力の半分も発揮できないのは、物理上明らかです) そして、この特定の支点箇所を作らず、慣性力にまかせるグリップを行なう上で、最も重要となるのが「極端な脱力」です。通常は、いくら脱力といってもある程度の筋肉の緊張は必要だと考えられがちですが、フリーグリップでは「腕全体の重さ」も「パワーとして生かす」ため、ほんの少しの緊張もあってはならないのです。 5年以上も前の話になりますが、このレッスンを日本のトップスタジオドラマーに対して行った時 (後に、この方が業界内にK's MUSICの話を広めて下さったおかげで、何人もの有名プロがK's MUSICに入校されました。大変感謝しております。) 日本屈指のトップドラマーでさえ「これ以上の脱力なんて無理なんじゃないだろうか?」と最初は思ってしまうほどの脱力が必要になるのですよ!! ですから、みなさんがフリーグリップの有利性を生かしきるためには、想像を絶するくらいの脱力が必要かもしれませんね!
もうお分かりだとは思いますが、脱力して腕を上げ下げした場合、振り下ろした時の指の形は伸びていますよね?
この「ショットの瞬間に指が伸びる」という感覚は、今まで日本的奏法で練習を積んで来てしまった人ほど、違和感を感じてしまうでしょう。なぜなら、日本的奏法は、叩く瞬間に「指を握る」もしくは、振り上げたままの指の形をキープして手首で叩く(日本的リバウンド奏法?)のが基本となっているからです。 この事に代表されるように、フリーグリップと日本的グリップでは、共通点は全く存在しません。ですので、今からフリーグリップを習得しようという方は「全く別のグリップ」と、しっかり認識した上で練習する事をおすすめします。
以下、フリーグリップと、従来の日本的奏法の特徴を、箇条書きで挙げてみますので、練習する際の参考にして下さい。
次に、スティックを持つ前に自分の手の構造について再確認しておきましょう。(以前の一言レッスンと内容が重複しますが、フリーグリップシステムを行う上で非常に大切な事ですので、もう一度しっかり把握してください) あなたの手には5本の指がありますね?では各指の長さはどこからどこまでですか? 答えは「図1」です。
いかがですか? おそらくあなたが考えていたよりもはるかに長くないですか? 実は「手」や「手のひら」は生活や文化的に存在するだけで、骨格的にはどこにも存在しないのです。「手首から先」にあるものは「指」だけです。 指先の骨はもちろん、手のひらの中に隠されている骨も私達は動かすことができます。手首を曲げる、ということは「指の根元を曲げている」ということがおわかり頂けたでしょうか? 次は手首を実際に動かしてみましょう。あなたの手首は上下左右や回転などあらゆる方向に動かせますね? しかしスティックを持つと「ドアのちょうつがい」みたいにしか動かせなくなる人が大勢います。
この形をとってしまうだけで筋肉に緊張が走り、脱力をする事は出来ません。もちろん、脱力が大前提となるフリーグリップシステムを行う事は絶対不可能です。
自然な形でスティックを持つという本当の意味は「手の形に合わせてスティックを持つ」ということではないでしょうか? よくよく考えると当たり前の事なのですが、「ドラムを叩く」「スティックを持つ」と思った瞬間に、不自然な形をとる(とってしまう)ドラマーが非常に多いようです。
いかがでしたか? 今回は超一流ドラマー達と同じグリップをマスターする上での最初のステップとも言えるフリーグリップシステムについて解説しましたが、最後に、なぜK's MUISCがフリーグリップをここまで推奨するかという、その重要な理由について書きましょう。 ここでは、自分に正直に問いただしてみて下さい。 メチャクチャ速いフレーズや、長時間のフルパワーが続くとき、楽に出来ていますか? 本当は「ちょっと苦しい」「ちょっとツライ」と感じているのではないですか? そのとき、なぜ、苦しいのか、ツライと感じるのか、その理由について考えた事はありますか? 最も簡単に小学校の「理科」で考えてみましょう。
本来なら、エネルギーは、すべてドラムを鳴らすために使われるべきなのですが、日本的奏法では、そのエネルギーの大部分が、自分自身の身体に反動として返って来てしまうのです。 よくよく考えてみれば、スティックはとても軽いものです。片方のスティックで携帯電話の約半分という軽さです。その、軽い軽い棒切れを動かすために、やれ手首のスナップだの、筋肉を鍛えろだのと言うのは、おかしな話だと思いませんか? つまり、貴方がスピードフレーズやフルパワー演奏で大なり小なり苦しく感じてしまうのは、 せっかく発生したエネルギーを、音楽演奏のためには利用できないばかりか、貴方は「自分自身が作り出してしまったエネルギーによって苦しんでいる」という事なのです。 それに対して、超一流ドラマー達が実演奏で使っている「フリーグリップ」は、慣性力までをも味方にして演奏するという、身体にとっての究極の「省エネ奏法」なのです。
では最後に、日本的グリップとフリーグリップシステムのパワーの差を動画でご覧下さい。
ボルトがガタつく寸前にチューニングされた、超ローピッチなフロアタムでの実演です。
いかがですか? フリーグリップシステムを使えば、通常ではあり得ないほどのローピッチのフロアタムでも大音圧で演奏することも可能なのです。 さて、超一流ドラマー達のグリップの「基本」は、意外な(!)所にありませんでしたか? 今回はフリーグリップシステムの初歩の説明にとどまりますが、支点移動を繰り返すわけですから、多種多様な応用グリップが存在します。(今回の動画も多少応用を効かせています)応用グリップに関しては、今後のドラミングアドバイスで詳しく説明していこうと思います。(繰り返しになりますが、グリップといえども身体の仕組みと切り離して考える事は出来ません) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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